年末調整が終わったからといって、その年の税務手続きが完全に終わったわけではありません。医療費が多かった年、住宅ローンを組んだ初年度、転職や退職があった年——こうした状況では、確定申告をしなければ払い過ぎた税金がそのまま戻ってきません。会社員が確定申告で取り戻せるお金は、数千円から数万円。見過ごすには惜しい金額ではないでしょうか。
確定申告で取り戻せるお金:5つの代表的なケース
① 医療費控除——年10万円を超えた分が控除対象になる
医療費控除は年末調整では処理できません。確定申告専用の制度です。自分だけでなく、生計を一にする家族の医療費も合算できるため、家族全員で10万円を超えれば申告の価値があります。
控除額の計算式はシンプルで、「支払った医療費の合計 − 保険金などで補てんされた金額 − 10万円(※総所得が200万円未満の場合は総所得の5%)」が控除額になります。※国税庁「医療費控除の概要」より(2026年3月時点)
年収500万円・独身の場合に医療費が年間20万円かかったとすると、控除額は10万円。所得税の還付が約1万円、翌年の住民税の軽減分を合わせると合計約2万円の税負担が減る計算です。
対象になる費用には、病院・歯科・薬局での支払いだけでなく、入院中の食事代、医療機関への交通費(電車・バス代)も含まれています。市販薬を購入した場合は「セルフメディケーション税制」として年間1万2,000円を超えた分が別枠で最大8万8,000円まで控除対象です。※国税庁「セルフメディケーション税制の概要」(2026年3月時点)
② ふるさと納税——「ワンストップ特例」を使った人も注意が必要
5自治体以内への寄付ならワンストップ特例制度が使えるため、確定申告は不要です。ただし、医療費控除など別の理由で確定申告をする場合は、ワンストップ特例が自動的に無効になります。ふるさと納税分も確定申告に含めなければ、控除が一切適用されないという落とし穴がある点も覚えておきたいところです。
ふるさと納税の控除は、寄付額から2,000円を引いた金額が対象で、所得税からの還付と翌年の住民税の軽減という形で戻ってきます。年収別の控除上限の目安(独身の場合)は下表をご参照ください。
| 年収(目安) | 控除上限額の目安 |
|---|---|
| 300万円 | 約28,000円 |
| 400万円 | 約42,000円 |
| 500万円 | 約61,000円 |
| 600万円 | 約77,000円 |
| 700万円 | 約108,000円 |
※上記は独身・社会保険料控除のみを前提にした概算。扶養家族の有無や配偶者の有無で上限は変わる。総務省「ふるさと納税ポータルサイト」(2026年3月時点)参照
③ 住宅ローン控除——初年度だけは確定申告が不可欠
住宅ローン控除は2年目以降、年末調整で手続きが完結。しかし初年度は必ず確定申告が必要で、これを忘れると1年分の控除がまるごと消えてしまいます。
2024年以降の新制度では、省エネ基準適合住宅の場合に借入残高の上限が3,000万円で、年間最大21万円(3,000万円×0.7%)の税額控除が受けられます。認定長期優良住宅やZEH水準等省エネ住宅であれば、この上限はさらに高くなるでしょう。初年度に申告を忘れると、この金額がそのまま消えてしまいます。※国税庁「住宅借入金等特別控除の概要」(2026年3月時点)
④ 生命保険料・地震保険料控除の申告漏れ——証明書を出し忘れても取り戻せる
年末調整は自己申告制です。控除証明書を提出しなければ処理されません。年末に転職して手続きが間に合わなかった、中途入社でタイミングが合わなかった——そういった場合でも、確定申告で追加申告すれば控除を受けられます。
生命保険料控除の上限は所得税で最大12万円(新旧制度合算)、地震保険料控除は最大5万円。年収500万円・所得税率10%の場合、生命保険料控除の上限まで申告すると最大1万2,000円の所得税還付が見込めます。
⑤ 年の途中で退職した場合——払い過ぎた所得税がほぼ戻ってくる
会社員の所得税は毎月の給与から概算で天引きされており、通常は年末調整で精算されます。しかし年の途中で退職してそのまま12月まで再就職しなかった場合、年末調整の機会がありません。給与から引かれていた税額は年収が多いことを前提に計算されているため、実際の年収より高い税率で徴収されたままになっていることが多いです。
たとえば3月末に退職して年間の給与収入が150万円程度だった場合、所得税の負担はほぼゼロになるはずです。確定申告をすれば、それまで天引きされた所得税のほぼ全額が還付されます。この申告を忘れると、お金は永遠に戻ってきません。
確定申告する・しないで手取りはどれだけ変わるか?
具体的なシミュレーションで比べると、控除の種類と年収の組み合わせによって、受け取れる還付額に大きな差が出ます。下の表は「医療費が年間20万円かかった場合」を例にとり、確定申告をした場合としない場合の差を示したものです。
| 年収(独身・概算) | 控除額 | 所得税還付額 | 住民税軽減額(翌年) | 合計節税額 |
|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 10万円 | 約5,000円 | 約10,000円 | 約15,000円 |
| 600万円 | 10万円 | 約10,000円 | 約10,000円 | 約20,000円 |
| 700万円超 | 10万円 | 約20,000円 | 約10,000円 | 約30,000円 |
※独身・社会保険料控除のみを含む概算。実際の金額は各種控除・家族構成等により異なる。国税庁の確定申告書等作成コーナーで正確な金額を確認されたい(2026年3月時点)
確定申告しなければ、この差額はそのまま手元に戻りません。反対に、申告すれば「何もしなかった場合」との差額がそのまま還付されます。e-Taxを使えば、手続きは1〜2時間程度で完結。
年末調整だけでは処理できない控除——「損していないか」の確認点
年末調整で対応できるのは、毎年ほぼ変わらない基本的な所得控除に限られます。支出が変動する控除、あるいは特定の事情(住宅取得・退職・医療費増大)が絡む控除は確定申告でしか受けられません。この違いを知らないまま放置すると、毎年損をし続けることになるでしょう。
| 控除の種類 | 年末調整 | 確定申告 |
|---|---|---|
| 給与所得控除・基礎控除 | ○ | ○ |
| 生命保険料控除 | ○(証明書提出が前提) | ○(漏れた場合もここで申告) |
| 地震保険料控除 | ○ | ○ |
| 扶養控除・配偶者控除 | ○ | ○ |
| 医療費控除 | × | ○ |
| ふるさと納税(寄付金控除) | ×(ワンストップ特例を除く) | ○ |
| 住宅ローン控除(初年度) | × | ○ |
| 雑損控除(災害・盗難) | × | ○ |
| セルフメディケーション税制 | × | ○ |
年末調整は雇用主が代行する手続きで、一定の控除しか扱えません。確定申告で初めて処理できる控除のほうが、実は会社員の生活に密着したものが多いです。
確定申告しないとどうなる?——ペナルティと時効の現実
ペナルティが発生するのは、申告義務があるのに申告しなかった場合です。会社員でいえば、副業収入や不動産収入が年間20万円を超えたのに申告しなかったケースがこれに当てはまるでしょう。
無申告加算税は、納付すべき税額の15〜20%(50万円超の部分は20%)が課されます。さらに、納付が遅れた分には延滞税として年利最大8.7%(2026年時点)が加算されます。放置すればするほど負担は増える一方です。※国税庁「無申告加算税・延滞税の税率」(2026年3月時点)
一方、医療費控除やふるさと納税など「税金が戻ってくる申告(還付申告)」には法的な義務がありません。申告しなくてもペナルティはかかりませんが、その分のお金が戻ってくることもありません。還付申告の時効は5年なので、過去の申告を忘れていた場合でも今からさかのぼって申告することができます。
確定申告すべきか——3分でわかるチェックリスト
以下のいずれかに当てはまるなら、確定申告で税金が戻る可能性があります。
- 今年の医療費(家族分含む)が10万円を超えた
- ふるさと納税を6自治体以上に寄付した、または他の控除と組み合わせる
- 今年初めて住宅ローンを組んだ
- 年末調整で生命保険料・地震保険料の証明書を出し忘れた
- 年の途中で退職し、12月31日時点で再就職していない
- 副業収入・不動産収入などが年間20万円を超えた
確定申告の受付期間は毎年2月16日から3月15日です。e-Tax(オンライン申告)を使えば税務署に出向かずに手続きが完結します。還付申告は1月1日から5年間いつでも受け付けているため、「今年の分はもう終わった」という時点でも過去分の申告は可能です。※国税庁「確定申告について」(2026年3月時点)
年末調整だけで済ませてきた会社員が確定申告を一度やってみると、数千円から数万円が手元に戻ってくることがあります。手続きの手間と戻ってくる金額を比べると、動く価値は十分にあるでしょう。